犬猫の再生医療?について

先日、大学院時代の親友(獣医大学教授)に誘われて獣医学会の学術大会に参加しました。ほぼ獣医大学の関係者で構成される学会でしたが、そこで再生医療に関するシンポジウムがありました。

強く感じたのは、「再生医療」という言葉が先行する一方で、獣医では治療効果の本体については、まだ十分に整理されていないのではないか、ということでした。

かつて再生医療というと、幹細胞などを患者に移植し、その細胞が損傷した組織を再構築することで、失われた機能を回復させる、というイメージが強かったと思います。しかし現在では、特に間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療などでは、移植した細胞そのものが長期間生着して組織を再構築するということはなく、効果があるとすれば細胞が分泌するサイトカイン、成長因子、細胞外小胞などを介したパラクライン作用や免疫調節作用が、治療効果に重要な役割を果たしていると考えられるようになっています。

ただそこには当然、細胞を治療薬として使用することによる問題もあります。高額な治療費、細胞の品質管理やロット間のばらつき、投与する細胞数や状態の標準化、さらに投与経路によっては細胞塞栓などのリスクも考えなければなりません。

そう考えると、重要なのは「細胞を入れること」そのものではなく、細胞が何をして治療効果を生み出しているのかを明らかにすることなのではないでしょうか。

もし治療効果の中心が、細胞そのものではなく、細胞が分泌する特定の抗炎症因子や免疫調節因子、あるいはそれらの組み合わせにあるのであれば、それらを同定し、より制御しやすく、安全で再現性の高い治療法として再構成できないかを考えることには大きな意味があります。

実際、私たちの臨床でも、このことを考えさせられる症例を経験しています。

つい最近転院されてきた患者様で、もともとは後肢が「ヘナつく」程度の段階で再生医療を受けていました。しかし、その後も症状は改善せず全く意味がなかったといわれ、約2か月後には、むしろ自力で立つことができない歩行不能状態に悪化し来院されました。その患者様はBBGによる治療を希望され、治療を行ったところ、約2週間後には再び歩行できるまでに改善しました。

もちろん、この一症例だけから「再生医療は無効である」「BBGが有効である」と結論づけることはできません。疾患そのものの自然経過、治療開始時期、病変の程度、その他の治療など、さまざまな要因が関係している可能性があります。

しかし、この症例を経験したことで「なぜその治療によって改善したのか、あるいは意味がなかったのか」という作用機序を見る必要があると感じました。

特に獣医療では、ヒト医療と比較すると、この領域はまだまだ発展途上です。もちろん獣医学においても優れた基礎研究や臨床研究はありますが、再生医療・細胞治療については、十分な症例数を持つ比較試験、長期的な安全性評価、作用機序の検証、治療プロトコルの標準化など、今後さらに積み上げていく必要がある部分が少なくありません。

その意味では、大学などで研究されているということ自体が、その治療の臨床的有効性を保証するわけではありません。基礎研究で細胞が何らかの作用を示したことと、実際の患者に投与して有意な治療効果が得られることの間には、まだ大きな距離があります。

それにもかかわらず、「幹細胞」「再生医療」「iPS細胞」といった言葉が、それ自体で治療の価値を保証するかのように受け取られてしまうのであれば、それは非常に危険だと思います。

極端に言えば、獣医領域では「再生医療」という看板が先行し、十分な科学的検証が行われないまま、高額な治療が提供されてしまう懸念があります。それは飼い主さんの期待に応えられないだけでなく、獣医療全体への信頼を損なうことにもつながりかねません。

何もわかっていない状況のまま先端医療というような安易な感覚で「細胞を投与する」というところで思考を止めるのではなく、

どの細胞が、どのような因子を分泌し、どの細胞やシグナル経路に作用し、その結果としてどのような病態が改善するのか。

そこまで明らかにする必要があります。

そして、もし細胞が分泌する特定の因子やシグナルが治療効果の中心であることが分かれば、それを細胞そのものではなく、薬剤やその他のより制御可能な治療手段として利用できる可能性があります。そうなれば、細胞治療に伴うコストや品質管理、投与上のリスクを減らしながら、より再現性の高い治療へ発展させられるかもしれません。

今回の学会シンポジウムで感じたのは、獣医領域においては、大学ですら「再生医療」ということの認識が遅れたままあやふやな状況なのではということでした。(マンパワーや研究費など獣医では大学でも仕方ない部分も多いのですが、ましてや開業医が安易に利益目的でやるようなことでは決してないと思われます。)

だからこそ、今後重要なのは、再生医療という「なんとなく先端治療」みたいなことではなく、それが本当に臨床的な意味を持つ治療なのか、どのような患者に、どのような機序で、どの程度の効果があり、どのようなリスクがあるのかを検証することだと思います。

今回の学会への参加では、シンポリストの先生方とディスカッションさせていただき、獣医での再生医療について考える機会であると同時に、「本当に意味のある治療とは何なのか」を考え直す機会にもなりました。

人医領域に比べ、ただでさえ先端医療というものが存在しない獣医療では、まだまだ検証すべきことが多いからこそ、言葉やイメージへの期待あるいは利益目的でやるのではなく、基礎および臨床で得られた結果を科学的に掘り下げ、その治療の本質を明らかにしていくことが、これからの獣医療には必要なのではないかと強く感じたシンポジウムでした。

そこで強く感じたのは、「再生医療」という言葉が先行する一方で、獣医では治療効果の本体については、まだ十分に整理されていないのではないか、ということでした。

かつて再生医療というと、幹細胞などを患者に移植し、その細胞が損傷した組織を再構築することで、失われた機能を回復させる、というイメージが強かったと思います。しかし現在では、特に間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療などでは、移植した細胞そのものが長期間生着して組織を再構築するということはなく、効果があるとすれば細胞が分泌するサイトカイン、成長因子、細胞外小胞などを介したパラクライン作用や免疫調節作用が、治療効果に重要な役割を果たしていると考えられるようになっています。

ただそこには当然、細胞を治療薬として使用することによる問題もあります。高額な治療費、細胞の品質管理やロット間のばらつき、投与する細胞数や状態の標準化、さらに投与経路によっては細胞塞栓などのリスクも考えなければなりません。

そう考えると、重要なのは「細胞を入れること」そのものではなく、細胞が何をして治療効果を生み出しているのかを明らかにすることなのではないでしょうか。

もし治療効果の中心が、細胞そのものではなく、細胞が分泌する特定の抗炎症因子や免疫調節因子、あるいはそれらの組み合わせにあるのであれば、それらを同定し、より制御しやすく、安全で再現性の高い治療法として再構成できないかを考えることには大きな意味があります。

実際、私たちの臨床でも、このことを考えさせられる症例を経験しています。

つい最近転院されてきた患者様で、もともとは後肢が「ヘナつく」程度の段階で再生医療を受けていました。しかし、その後も症状は改善せず全く意味がなかったといわれ、約2か月後には、むしろ自力で立つことができない歩行不能状態になって来院されました。その患者様はBBGによる治療を希望され、治療を行ったところ、約2週間後には再び歩行できるまでに改善しました。

もちろん、この一症例だけから「再生医療は無効である」「BBGが有効である」と結論づけることはできません。疾患そのものの自然経過、治療開始時期、病変の程度、その他の治療など、さまざまな要因が関係している可能性があります。

しかし、この症例を経験したことで「なぜその治療によって改善したのか、あるいは意味がなかったのか」という作用機序を見る必要があると感じました。

特に獣医療では、ヒト医療と比較すると、この領域はまだまだ発展途上です。もちろん獣医学においても優れた基礎研究や臨床研究はありますが、再生医療・細胞治療については、十分な症例数を持つ比較試験、長期的な安全性評価、作用機序の検証、治療プロトコルの標準化など、今後さらに積み上げていく必要がある部分が少なくありません。

その意味では、大学などで研究されているということ自体が、その治療の臨床的有効性を保証するわけではありません。基礎研究で細胞が何らかの作用を示したことと、実際の患者に投与して有意な治療効果が得られることの間には、まだ大きな距離があります。

それにもかかわらず、「幹細胞」「再生医療」「iPS細胞」といった言葉が、それ自体で治療の価値を保証するかのように受け取られてしまうのであれば、それは非常に危険だと思います。

極端に言えば、獣医領域では「再生医療」という看板が先行し、十分な科学的検証が行われないまま、高額な治療が提供されてしまう懸念があります。それは飼い主さんの期待に応えられないだけでなく、獣医療全体への信頼を損なうことにもつながりかねません。

何もわかっていない状況のまま先端医療というような安易な感覚で「細胞を投与する」というところで思考を止めるのではなく、

どの細胞が、どのような因子を分泌し、どの細胞やシグナル経路に作用し、その結果としてどのような病態が改善するのか。

そこまで明らかにする必要があります。

そして、もし細胞が分泌する特定の因子やシグナルが治療効果の中心であることが分かれば、それを細胞そのものではなく、薬剤やその他のより制御可能な治療手段として利用できる可能性があります。そうなれば、細胞治療に伴うコストや品質管理、投与上のリスクを減らしながら、より再現性の高い治療へ発展させられるかもしれません。

今回の学会シンポジウムで感じたのは、獣医領域においては、大学ですら「再生医療」ということの認識が遅れたままあやふやな状況なのではということでした。(マンパワーや研究費など獣医では大学でも仕方ない部分も多いのですが、ましてや開業医が安易に利益目的でやるようなことでは決してないと思われます。)

だからこそ、今後重要なのは、再生医療という「なんとなく先端治療」みたいなことではなく、それが本当に臨床的な意味を持つ治療なのか、どのような患者に、どのような機序で、どの程度の効果があり、どのようなリスクがあるのかを検証することだと思います。

今回の学会への参加では、シンポリストの先生方とディスカッションさせていただき、獣医での再生医療について考える機会であると同時に、「本当に意味のある治療とは何なのか」を考え直す機会にもなりました。

人医領域に比べ、ただでさえ先端医療というものが存在しない獣医療では、まだまだ検証すべきことが多いからこそ、言葉やイメージへの期待あるいは利益目的でやるのではなく、基礎および臨床で得られた結果を科学的に掘り下げ、その治療の本質を明らかにしていくことが、これからの獣医療には必要なのではないかと強く感じたシンポジウムでした。